「ただいま」

と言っても、誰もいない。暗い部屋に電気をつけ、コートを脱ぐ。

俺は1人暮らしをしている。大学進学に伴って、田舎からでてきた。
仕送りだけじゃ苦しいので、ファーストフードでキッチンのバイトをしているのだがこれがいただけない。
さっきの松山羽織は3日前に入ったばかりの新人。どうやら同じ大学らしいのだが、どうも馴れ馴れしくて対応に困る。

店長は名字が松繋がりだというだけで採用してしまう、困ったちゃんな上司だ。
あまり関わりはないのだけれど、カウンターのバイトちゃんたちは年がら年中下らないことで揉めている。
せっかく慣れたバイトなので辞めたくはないが、いろいろな意味でうんざり状態だ。

「…腹へった」

休憩あけから、なんにも食べていない。
うっすらと期待を込めて開けた冷蔵庫は、案の定からっぽだ。

まったく、ついていない。
仕方なくコンビニへ行こうと再びコートを手にしたとき、チャイムが鳴った。

誰だろう。

こんなオンボロアパートに訪ねてくるなんて、しかも彼女は3か月前に自然消滅した。

ピンポンピンポンピンポンー。

しつこい。

居留守をしようとしたが、明かりもついているしきっとバレバレだろう。
仕方なく出ることにした。
がーっ!

がちゃん。

自然に鍵が開いた。

確かに俺は見た。
触ってないのに、俺が開ける前に勝手に鍵が開いた。

疲れているのだろうか、俺。

しばらく固まっていると、更にドアがゆっくりと開いていく。