「繭気合い入ってるわね~」


朝、

約30分かかったメイクを終わらせ下へ降りると、

ニコニコのお母さんがそう言ってきた。



「そっ…そう?」


とぼけながら言う私にお母さんは、

クスクスと笑いを堪えている。


それもそのはず、

なんてったって今日は年に一度の


“バレンタイン”


だもん。

いつも以上に時間をかけて頑張ったメイクを

「そっ…そう?」

なんて一言でごまかせるはずがない。


それに昨日の夜キッチンで、

大きな物音をたてながら、

チョコ作りに専念してたしね……。


それにまだそのチョコの甘い香りが、

微かにキッチンの横にあるリビングまで

漂ってるくらいだし……。


こんな状態で誤魔化せたらすごいっていうか…。


「でも…

つい最近まで初恋もまだだった繭にも、

やっとチョコを渡す相手ができたのね!!

お母さん嬉しいわ~」


上機嫌で鼻歌を歌い始めたお母さんを横目に私は冷や汗をタラリと垂らした。


「おっ…お母さん、

それがね………まだ、

いないんだ…ょ」


語尾を小さくしてお母さんから目を逸らした。