「･･･ひ、人？」

目の前に倒れている、自分が突き飛ばしたものをまじまじと見つめた。
確かに人間だった。

歳はハタチそこそこだろうか、赤茶色の髪が印象的で、目鼻立ちも整った綺麗な顔立ちをしている。

とりあえず、意識がないだけで息はしているみたいなので安心した。

隆也の鼓動は、まだ落ち着かずドキドキと大きな音をたてていた。

突然襲われたことへの驚きと、それに初めて見る、まるで人形のような綺麗な顔をした少女のせいでもあった。

ずいぶん長い間、その少女の顔を見ていたような気がする。
しかし頭の中が真っ白で、立ち上がることすら出来なかった。

ふいに誰かの声がして、隆也は我に返った。

酔っ払いだろうか、騒がしいくらいに大きな声で何かを話している。
あるいは独り言かもしれない。

まだ見えないところを見ると、ここからはまだ遠いらしい。

隆也は考えた。
この少女をどうすればいいのか、少なくともこのままにしておくわけにはいかない。

考えた結果、気を失っている少女への罪悪感と、放っておくわけにはいかないという良心、それに少しばかりの興味から、まず部屋に連れて行くことにした。

「酔っ払いに襲われても困るしな、うん」

まるで、言い聞かせるようにつぶやいて自分の言葉に強く頷いた。