隆也は食べたことのない高級な肉を大事そうに抱え、鼻歌まじりで歩いていた。

しかし、1人暮らしをしているアパートまであとわずか、アパートのゴミ置き場が見えてきたところで何故か足を止めた。

「・・・」

野良犬?浮浪者?
なんとなく、ゴミ置き場のところから視線があるような気がして注意深く見据えると、数個のゴミ袋と、薄汚い毛布に何かがくるまっているのが見える。

あの薄汚い毛布にくるまっている“何か”が、微妙に動いているのが遠目でもわかった。

とりあえず突っ立ってても仕方がないと、なるべくゴミ置き場を遠ざけて注意しながら歩き始めた。



視線を外さないように・・・。



足音をたてないように・・・。



もうすぐそこがアパートの階段だ、と思った瞬間――

ガザ・・・ガザッ・・・

やっぱり何かいた!

毛布にくるまったままの、その“何か”が隆也目がけて飛び掛かってきた。

「・・・ぅ、わッ」

その“何か”は、飛び掛ったと同時に右腕にしがみついて噛み付いた。
噛み付かれたので犬だと思い、わけのわからぬまま懇親の力を込めて振りほどく。

思ったよりも軽く振りほどけた“何か”は、そのまま勢いで電信柱に打ち付けられ、その場に倒れこんだ。

気の緩んだ隆也はその場にペタンと座り込む。
そして自分に飛び掛って噛み付いてきたものが、人だとわかって呆然とした。