保育園から10分ほど歩いた場所にある小さな商店街。
その商店街のほとんどの店のシャッターは下りていたが、その中で精肉店だけは、誰かを待っているかのように煌々と灯りが点いていた。

すごい勢いで商店街の中を走ってくる隆也を見つけ、精肉店のおやじは叫んだ。

「先生~、今日は来ないのかと思ったよ~」

隆也は思いっきり息を吸い込んで一気に全部吐き出した。

「いやぁ、今日は母親の都合で時間延長した子がいて―・・・」

「へぇ~・・・、それより今日はいいやつ入れておいたよ」

隆也の言葉に適当に相槌を打ったおやじは、店の奥から肉を出してカウンターに置いた。

素人にも一目で高級だとわかるその肉を見て、隆也は言葉に詰まる。

「ちょ・・・、これ・・・」

毎月、給料日は贅沢をしようと心に決めている隆也は、毎回この店で高い牛肉を買っていた。

「いい肉だろう~、サーロイン!1枚180グラムで7000円!」

得意気に牛肉の説明を始めたおやじだったが、隆也は値段を聞いて驚き、その後の説明は耳に入ってなかった。
いつも買う肉は、贅沢といってもせいぜい100グラムで700円程度。
小さいスーパーじゃ置いてないが、見たこともない値段ではない。

「ちょ、待っ・・・、いくら給料日だからってそんな・・・高い肉は・・・」

せっかく用意してもらったのに申し訳ない・・・といった感じの隆也に、おやじはニヤリと不敵な笑みを見せた。

「心配すんなって、先生の懐具合はよ~く知ってるからよ、この肉なんと半額でどうよ!?」

かくして思いがけず高級な肉を手に入れた隆也は、何度もお礼を言いながら家へ向かって歩き始めた。