『俺だけだったんだよ』


独り言のような小さな呟き。

それでもちゃんと俺には届いた。


俺はとくに何も言わずただ涼を見ていた。



『俺だけだったんだ、燃えてたのは。

俺だけだったんだ、あの恋が本気だったのは。


アレかなぁ…

今まで遊んでばっかりだった俺への罰かなぁ…


こんなことになるんならどの恋も真剣にやっとくんだった…』


涼は額に手を当てそのまま床に倒れた。



『俺、バカだよなぁ…

遊ばれてることにも気づかず浮かれてたんだから。


今まで、俺と付き合ってきた女の子はみんなこんなキモチだったのかなぁ…』


涼は手で目を隠した。



『涼』


完全に黙ってしまった涼の名前を呼ぶ。

とくに応答はない。


だから続けた。



『そうやって相手の気持ちが分かったなら、もう2度と同じことは繰り返すな。

それと』


俺はビールを一口含んだ。



『その彼女と付き合ったこと、後悔するな。


確かに遊ばれてたかもしれない。

涼の中で1番辛い恋だったかもしれない。


でも、大事なことに気づかせてくれた人だろ?


今回のことはいい勉強だった、ってことで思い出にしとけ。』


しばらくなんの反応もなかった。

でも突然、涼は起き上がった。



『分かってるよ、んなこと。

さ、呑むぞ、今日は。


誘ったのは優作なんだから最後までちゃんとつきあえよ』


そう言ってニヤッと笑う涼。


目が赤かったがあえて触れなかった。

いや、触れないことが正解だと思ったからいつものノリで



『どうせお前がさきに潰れるんだろ』


と、言ってやった。