「今、なんでそのこと優作に教えないんだろ?って思ったでしょ?」
考えを見透かされ、言葉も出ない私。
「言わない。と、いうか言えないよ、ずっと。
優作のこと思うと、記憶が戻った。なんて言えない」
俯く美優さん。
「優作の大事な時間、奪ったのはあたし。
優作は目の見えなくなったあたしを幸せにしようとしてくれた。
でもあたしは、死を選んだ。
そんなあたしに優作をまた傍に置いておく資格なんてないもの。
優作には悪いけど…でも、このまま記憶の戻ってないフリするつもり。
今、優作にはあなたがいる。
安心したわ。
正直言えば…ちょっと、悔しいけどね」
悪戯な笑みを浮かべる美優さん。
でも、おかしい。
そんなの…ダメだ。
「優作さんに言ってあげてください。
記憶が戻ったんだ、って。」
「何言ってるの」
美優さんが厳しめの声をあげた。
「優作はこれからあなたと幸せになる。
それを邪魔することはあたしにはできない。
ね、お願い。
優作を幸せにしてあげて。
あたしにはできなかったけど、でもきっとあなたにならできる。
あたしは…遠くから見守ってるから。
だから、優作のこと…幸せにしてあげて」
美優さんはそう言うと手で顔を覆った。
そのとき、手の間から1粒の雫が布団の上に零れた…
―Side 奈々 終―


