ほとんど女性客が占める狭い店内でゆったりとしたジャズが流れていた。
「温かいカプチーノでも飲んできなよ」
後ろからそう背中を押されて店の奥へ入ると、カウンターの向こうに柊二がいた。
いつもはマスターと柊二とカズさんかタケさんがいる。
今日は柊二とタケさんの二人がカウンターで女性客の相手をしていた。
それはいつもの光景。
アタシは1席だけ空いていたカウンター席に行こうとして、足を止めた。
だって……。
柊二がカウンター越しに一人の女性からうれしそうに小さな袋を受け取っていたから――。
今日はバレンタインデー。
きっと、あの中身はチョコレート。
営業スマイルかもしれない。
でも……あんなにうれしそうにチョコを受け取るなんて……。
一番見たくないシーン。
柊二は仕事とはいえ、アタシ以外のチョコも受け取るんだ……。
ケンカしてるくせに、沸々と湧き出る嫉妬心にアタシはため息が零れる。

