学校からの帰り、家に帰らずに、ぶらぶらと町を歩いていたときだった。


あたしはその男に声をかけられた。


肌の色は浅黒く、背が高い。頭には山高帽を被り、ブランド物のスーツに身を包んでいる。


金持ち風ではあるけれど、威張った感じはしない。


年は40代くらいだろうか。


その年代にしては痩せていて、どこか紳士的な雰囲気を漂わせていた。




「そこのお嬢さん」


男はあたしに呼びかけた。


「ちょいといいかな?」



「何ですか?」


あたしは立ち止まった。



このとき立ち止まって、男に返事をしなければ、あたしの人生はまったく別の人生になっていたかもしれない・・・。