「平瀬さん?
もうお帰りですか?」


振り返った先にいたのは
萩乃宮蔵之助



「はぁ。
疲れたので…。」


軽く頭を下げる


クスクス笑う蔵之助さん

「久しぶりに顔を見れて嬉しかったよ。
新しい生活はどうですか?」

新しい生活
お屋敷のみんな
このドレス


「はい。
色々していただいて、本当に感謝しています。

蔵之助さんはどうして、私なんかにここまでしてくれるんですか?」



赤の他人なのに


蔵之助さんにいつか見た
慈愛に満ちた微笑みが広がる


「あなたに幸せになってほしいからですよ。」



私に
幸せに…?



「蔵之助様、そろそろ。」


芳賀さんが蔵之助さんの耳元で囁いた


「申し訳ない。
そろそろ失礼します。
気をつけて帰ってくださいね。」



「はい。」



蔵之助さんに見送られてフロアを出た


デッキに満ちる塩の香りと月明かり



豪華客船はゆっくり港に近づいていた