なつかしい、潮風。
わたしは思い出す。
風の温度、肌触り、
風のにおい。
髪がなびく、
あの感じ。
胸にすいこむと、
息がつまりそうな、
海の空気。

携帯電話を
耳に当てたまま
まるで幻聴のように
聞いている。

でも、はっきりとした
記憶の中と同じ
あの浜辺の音を
聞いている。

わたしは心があせる。
急がなくちゃ、と思う。
わたしの足は勝手に動く。
むやみに部屋の中を歩いてる。
そして、
無意識に、
足が向かっている、
いつのまにか、
家の外にいることに気づくのだ。

わたしは、
海へ向かって歩いてる。
部屋を出て、
外へ向かって、
海の見えないこの町から、
すこしでも、
海岸線へ近づくように、
わたしは歩き出す。