わたしは電話を耳に当ててる。
さっきからずっと通話中なので、
ケータイはだんだん熱を帯びてきてる。

かかってきた瞬間、
わたしにはわかった。
非通知なのに、
どこからの電話なのか、
はっきりとわかった。

話しているわけではない。
誰かの声が聞こえるわけではない。
遠くから音がするだけ。
かすかな音がするだけ。

波の音。
なつかしい、海の音。

非通知だったけど、
わたしは期待する。
電話の向こうに、
誰がいるのか、
期待する。

そして、ほぼ確信している。
電話をかけてきたのが
誰なのか、
わたしにはわかっている。
波の音が教えてくれている。
わたしにわからないはずがない。
だから声がしないのだ。
わたしなら、
きっと誰だかわかってしまうから。
電話の相手もそれを
確信しているから。

電話のこちらと向こうで
お互いに
信じてる。

信じてる。