「う、嘘…そんな!」

小夜の声は以前震えたまま――いや、震えが増したかも知れない。

無理もない。
亡骸こそは塵となってしまったが、人が目の前で死んだのだ。

小夜はガクッと床にひざをついた。

「よし、開いた!!」

後ろで弥生が怒鳴る。
扉に着いてからずっと扉のパスを解析していたのだ。


扉のパスがわかり、入力し終え重い扉を開きにかかる。


最後の仲間の子が小夜を立たせようと手を伸ばしたときだった。

ヒュン!と何かが二人の間を走った。


「きゃあぁぁぁ!!」


小夜の悲鳴が響く。
飛んだそれは小さな矢のようなもので、奥にいた弥生の肩に刺さった。


しかし、小夜の目は弥生を向いてはおらず、仲間の子の腕に釘付けになっている。


彼の手首から先が小夜の足元に落ちていた。
少し遅れて、腕からドッと血が溢れ出る。


小夜は気が遠くなりそうになった。

その時、彼が小夜に覆いかぶさった。
ドスッという音と同時に彼の顔が苦痛にゆがむ。

激しい痛みにも関わらず、彼は機械化された足で小夜を扉の中へと蹴り飛ばした。

「ぐぅっ!」

受身もとれず、壁に体を打ちつけた。
しかし、大きなショックの所為なのか意識ははっきりしている。


「砺波!」


弥生の声に振り向き、よろよろと立ち上がる。
弥生は、扉を閉めにかかっていた。


「!」


弥生は、中へ入って来ていない。


「お前は先に進め!! 何が何でも逃げ切れよ! いいな!!」


弥生の元へ走りよろうにも体が動かない。
その間にも扉は閉まる。
もう十数センチほどしかない。


「やだ!! 弥生! やだよ……ねえ、来てよ!!」

閉まりゆく扉の向こうで、弥生がフッと微笑んだ。


「じゃあな」


ガコン…と音を立てて扉は閉まった。