チャンドラの杯

「シドに何するの！」
　見ると、車から降りたソーマがこちらに駆けてくる。私はぞっとした。
「駄目だ！　来るなソーマ！」

「ソーマ？」

　女が顔を動かして、赤い瞳でソーマを見た。

　ソーマはひっ、と小さく声を漏らして動きを止めた。
　が、すぐにまろぶように駆け寄ってきて私の腰にしがみついた。

「やめてよ！　シドはソーマの大事な人なんだよ！　だからやめてよう！」
　女が切っ先を僅かに動かした。
「きゃー！」
　私にしがみついたままソーマが悲鳴を上げる。
「待ってくれ！」
　私は必死に言った。
「俺も、ソーマも、あんたを傷つける気はない。話をしたいだけだ！」

「ソーマ・セレニティ。光栄だねえ、記念すべき新世代第一号にこんなところでお目にかかれるとはねえ」

　くくく、と女が低い声で嗤った。

「そういうことか･･････成る程ねえ」
　女は私とソーマを交互に眺め、一瞬で何かを悟ったように頷いた。