その町で出会った老人たちは、彼女の唇から紡がれる歌声を魔法と呼び、空飛ぶ羽虫を妖精と呼んだ。

「僕は行けない」と彼は言った。
「僕も、待っているから」
 私と彼女が訪れた海の上の町で、男はそう言って私の誘いを断った。
「この場所で待っていると約束した」

 美しい町だった。美しくて、怖ろしく、そして悲しいネバーランド。

「だが──二百年以上待ったが、そいつは現れない」
 私の誘いを断った男は、美しい若者の姿をしていた。もしもまだあの町にいるのなら、今もやはり変わらず美しい姿をしているのだろう。

「だから、ひょっとすると忘れているのかもしれない」
 男はそう言って、小さな包みを差し出した。
「僕はこの場所を離れるわけにはゆかないが、もしもお前たちが旅の途中で会ったら、渡してもらえるだろうか」
「誰に?」
 包みを受け取りながら聞いた私の問いに、彼はこう答えた。

「月から降りてきた女に」

 そうして寂しい笑顔を見せた。
「たぶん、その女が最後の希望を持っている」
 彼の言葉は私の脳裏に深く刻まれた。
「お前たちが探す希望と同じだと思う」

 私は彼の言葉と一緒にその包みを大切にしまい込んで、そしてその包みは今日に至るまで変わらず私の手元にある。
 渡すべき相手を見つけられぬまま。