白い鳥が泣いている。くう、くう。白い鳥は悲しそうな声で泣く。白い鳥を慰めるように、波は優しい音を立てて打ち寄せる。

 今日も、水平線の向こうから船は来ない。
 空はこんなにも青いのに。海はこんなにも青いのに。
 船は、来ない──。

「来るよ」
 ココが、手の甲を掻きながら言った。
「今日こそはきっと、来る」
 僕も頷く。
「うん、きっと来る」
 あの水平線の彼方から。
「来たら、わかるかな」

 僕は隣に座るココを見る。ココの鳶色の瞳がじっと僕を映していた。ココの瞳の中で、僕はもう一度頷いた。

「船はきらきらしてるからすぐにわかるよ」
「大きいからすぐ気づくよね」
「でも、船は・・・・・・」
 あの水平線の彼方から来る船は。
「船は僕らに気づいてくれるだろうか」

 ココは黙って手の甲を掻いた。彼女の手の甲はぷっくりと赤く腫れている。飛んでいる妖精を捕まえようとして昨日刺されたのだ。妖精は小さな槍を持っていて、僕たちが悪さをしようとすると時々チクリと反撃する。

「シオン、ココ」
 背中から、優しい声が僕とココを呼んだ。
「お昼ご飯だよ。マザーのところに行こう」

 風避けの布ですっぽり覆われた、ひょろりと背の高い体が目に入る。
 砂浜の向こうから、ロエンが手を振っている。
 僕とココは返事をしなかった。僕は海の青い色を睨みつける。
 もうお昼、と砂の上でココが呟いた。