この線路がどこへと続いているのか、私は知らない。
 誰が、いつ、何のために作ったのかも。
 線路は、黄色い砂漠の中をただ真っ直ぐに地平の果てへと延びている。今はもう廃墟になってしまった幾つもの町を貫いて、ただ真っ直ぐに・・・・・・。

 駅はない。
 走る列車もない。
 線路の上を往くのは、私だけだ。
 赤茶けた鉄のレールの上を裸足で歩く。昼となく、夜となく。
 たった一人で線路を歩く。片手に古ぼけた大きなトランクを持って。
 道連れは黒い影法師だ。

 ときどき──たとえば月の光が奇妙に青白い晩、私は後ろをついてくる影法師に話しかけてみる。
「影法師くん。私はあと幾千の夜、こうして歩き続けるんでしょうね」
 すると影法師は、藍(あお)い闇にくつくつと忍び笑いを響かせながら答えてくる。
『おやおや、今夜はやけにセンチメンタルだねえ』
 こんな具合だ。

 長いこと線路の旅を続けていると、廃墟に暮らしている人々に出会うこともある。とても稀で、大抵は空っぽの傷んだ建物しかお目にはかかれないけれども。
 そして更に稀ではあるけれども、人ではないものに出会すこともある。