「……スゥ…」

城島は深く息を吸い込んだ。


「清水さん、がんばって奥さんに会いましょうね。」

城島の隣で兄貴は別の患者を診ていた。

「…ハァ…、諦めろ。母親と子どもと…。こんなクソ忙しいのに出産なんて診てられるか!!」

城島は息を吐き込むと冷たい言葉を放った。

「オイ城島!!何言ってんだ!!」

城島の言葉に兄貴は叫んだ。

『…………』

また病室は静まり返った。

「井上、わかるか!?
今病室は呼吸器も足らず、医者の数も足りない!!」

「………」

「そんな時に出産なんか迎えてみろ!
生まれた子どもも院内感染ですぐに逝っちまう!!
母体もこの環境じゃ生きていけるかもわからん!!
そん中で出産する方が他の患者を殺すことになんねんぞ!!」


(スッ…)

「手術室に入りましょう…。」

兄貴は妊婦のベッドを押し始めた。

「オイ井上!!」

「城島…お前は2つ間違ってる…。
まず1つは生まれたての子どもは放置すればすぐに死ぬが、案外病気にはかからないもんだ。
そしてもう1つは…」


「……?」


「…どんな状況でも“医者が諦めたらもう終わりや”。
これを教えてくれたんわ……、…城島、お前やぞ?」

(ガコン…)

兄貴は手術室へとベッドを向かわせた。


(…スッ…)

「ごめんな…坊主…」

城島は亡くなった男の子に手を添えてから作業に移った。

「これから患者は絶対助ける気で助けるんや!!」

城島の目の色が変わった。

(…本間今日は最悪なクリスマスや…)