しかし、その空間旅行は五秒とかからぬうちに終わってしまった。
渦の出口らしきものから見えたのは、一人暮らしをしていた頃の家だった。
ストン
綺麗な着地の音と一緒に、二人は暖色系の色がよく使われたリビングに落ちた。
「イア、ママが……早く行こう」
シルヴィア……
いや、今この世界では結衣だろうか?
結衣は少し涙を溜めながら、イアを見つめた。
その表情は世界から愛された王女シルヴィアではなく、一人の少女であり完全に結衣だった。
「どうしよう……確かにあの世界で生きていくって決めたけど、この頃は幸せすぎてママのことなんか考えてなかった。育ててくれたのに……」
記憶が戻った彼女にとっては、ニアと過ごした日々がはっきりとあり、しかも本当の親である人がいるのだ
今までよりも、悲しみや人間界への未練がなかったのだと思う。
しかし、人間界の両親にとってはたった一人の娘だ。
その事実が彼らを思い出さなかった結衣を締め付けているようだった。
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