魔王に忠義を

突然吹き込んでくる突風。

禍々しい殺気を孕んだその風に、その場にいた全員が息を飲む。

…突風は南から。

言うまでもなく封印の地の方角だ。

「ぬかったな…」

思わず歯噛みしながら呟く。

俺は魔法が使えない分、魔力に関する知識にも疎いが、この尋常ではない魔力量…明らかに『人でなき者』の魔力を帯びた突風である事はわかる。

「遅かったかもな…」

生粋の狩猟者であるアキラも、その異常は感じ取っていた。

「こんな威圧感は…汚竜の時だって感じなかった…」

抑揚のない声。

だがナハトにもこの状況は十分に理解できている筈だ。

儀式は成功したらしい。

魔王は…復活したのだ。

「どうする…?」

額に汗すら浮かべて、アイシャが俺の顔を見た。

「もう阻止どころの騒ぎじゃなくなった訳だけど…」

「どうもこうもあるか!」

アキラがすぐにナハトの自動二輪の後部シートにまたがった。

「魔王の一番近くにいるのは俺達だ!出来る限りの事はしないと!」

「同感だな」

俺も頷く。

この位置ならば一番に魔王の侵攻を受けるのはファイアルか。

それは歓迎だが、秘密結社の思惑通りに事が運ぶのは面白くない。

「それに…秘密結社の崇拝する魔王様とやらの顔も一目拝みたくはある」