魔王に忠義を

「ぬ」

ネルスがすかさず鞭を変化させた。

瞬時にして長鞭は短鞭へと姿を変え、懐に飛び込もうとする俺への迎撃態勢を済ませる。

長鞭とは違い、短鞭は扱うのに然程の技術を必要としない。

相手に向かって振るえば、たやすく裂傷を与える事ができる。

ネルスの手にしている炎を纏った短鞭なら尚更だ。

火傷と裂傷。

その苦痛もダメージの大きさも並大抵ではあるまい。

だが、ネルスが打つのは俺の身ではない。

懐に飛び込む直前、俺は外套の中から水筒程度の大きさの筒を投げつけた。

…何らかの飛び道具だと思ったのだろうか。

ネルスは不用意にもその筒を短鞭で打った。

両断される筒。

それはそれで、素晴らしく切れ味のいい短鞭だと誉めておく。

しかしネルスは筒の中身を考慮すべきだった。

…筒の中身。

それはチェーンソーブレードの動力、2ストロークエンジンの為の燃料であるガソリンだったのだ。