魔王に忠義を

その瞬間、アイシャは覚悟を決めたに違いない。

自由に生きる風の民、フーガ。

そのフーガの彼女にとって、束縛され、隷属させられ、望みもしない行為で苦汁を舐めさせられるのは何よりの屈辱だろう。

穏やかな気性のように思われるフーガだが、その誇りを踏みにじられるのならば火の民以上に猛り、戦うだろう。

力と勇気を誉れとするファイアル。

技術と文明を誉れとするドーラ。

ならばアイシャ達フーガは、自由こそが誇り。

一度ならず二度までも誇りを踏みにじったネルスに、何故隷属する理由があろう。

ならば誇りを見せるまで。

たとえ命をなげうったとしても。

彼女は渾身の風を、傲慢な炎に叩きつけていたに違いない。

…俺が制していなければ。

「ヴァン!放しなさい!」

「……」

「放しなさいよぉっ!」

大粒の涙をこぼし、吹き荒れる若き風。

…似合わない。

この娘は穏やかにそよく春風だ。

迷走する烈風はそぐわない。