魔王に忠義を

忘れる所だった。

形状こそ鞭だが、ネルスが手にしているのは『魔法』なのだ。

かつての六英雄の一人、火の勇者アキラが得意とした魔法に『魔法剣』というものがある。

炎の魔法の威力を凝縮させ、一振りの剣の形にしたもの。

威力こそそこまでには至らないが、ネルスの鞭もそれと同じ原理のようだった。

見た目に惑わされてはいけないのだ。

あれは炎の魔法。

つまり武器対魔法なのだ。

間合いも形状も火力も自在に変化させられるネルス相手に、俺達は劣勢を強いられるしかない。

「アイシャ」

突然ネルスが俺の傍らに立つ娘の名を呼ぶ。

「後悔しているか?俺のくれてやった金で魔法を得たらしいが、所詮はフーガ。火の民の足元にも及ばんのさ」

「……!」

アイシャが唇を噛む。

「跪いてあの時のように俺に隷属しろ」

ネルスはアイシャに侮蔑の言葉を吐く。

「涙を浮かべて、哀願しながら一心不乱に俺に奉仕しろ。売女如きが俺に盾突いたのだ、そうするしか命乞いの術はないと思わんか?」

「っっっっっっ!」