魔王に忠義を

帯というよりは鞭に近い。

炎の鞭はアイシャの足首を捕らえたまま、彼女を地上に引き摺り下ろす!

当然彼女の魔法で飛翔していた俺も、地面に叩きつけられる結果となってしまった。

「そんな目立つやり方で、狙われない方がおかしいとは思わんか?」

落下の衝撃にうめく俺達の前で、一人の男が嘲笑った。

紫の生地に金の刺繍をあしらった上等な仕立ての衣服。

口髭をたくわえた、豪放な印象の恰幅のいい男。

その手には、先程アイシャを地上に引き摺り下ろした炎の鞭が握られている。

あのような武具は、どんな優秀な職人でさえも作れるものではない。

あの炎の鞭を作る事ができるのは、潜在的に炎の魔法の力を宿す者…ファイアル人だけだ。

「貴様…秘密結社の構成員か?」

男を睨みながら背中のブレードを抜く。

「まぁな…Ⅹ番とだけ名乗ってやるか」

男は俺の視線を軽くいなしながら不敵に笑った。

炎の魔法の使い手、あの上等な仕立ての服。

ファイアル貴族と見て間違いないだろう。

Ⅹ番となると、俺よりも後に秘密結社に参入した構成員だな…。

そんな事を考えていた時だった。

「そいつの名前はネルス・ハインベルト。ファイアル貴族ハインベルト家の当主よ」

意外にもアイシャが、男の素性を言い当てた。