年が明けて暫くして詩織さんが遺した手紙を整理していて詩織さんの母はある事に気付いたと言った。


 「明日の私へ。今日は楽しい日になりそうですか?」というお決まりの文頭の後に秋ぐらいから少しずつ僕の名前が書かれている事に。

 それは本当に他愛もない事で最初は「司書のバイトのお兄さん」だったが「背の高い、青色の図書員エプロンがよく似合うお兄さん」になり「僕の名前」と変わっていったらしい。


 前の日の記憶など留めておけるはずのない、そう思っていた彼女に幽かに現れ始めた『記憶』の兆候だった。

 だけどその兆候が形を成す前に彼女の寿命の方が先に来てしまい…逝ってしまった。