「死体の顔を見るんだ。
嫌なら良いし、確認しても別人かもしれない。」


どうする?


最後まであたしを抱き締め、ジルはそう問うてきた。


ただ、体は小刻みに震えていて、告げられた現実を現実だと受け止めきれないほど、恐ろしいことが起こっている。



「…行くよ。」


消え入りそうなほど、あたしの声はか細かったろう。


ゆっくりと体を離したジルは、あたしの姿を瞳の真ん中に入れ、言う。



「大丈夫だ、俺がついてるから。」


何が大丈夫なのか、ジルがついてて何になるのかは、わかんない。


それでももう、あたしがこの人生を選んだのだから、何があっても目を逸らさない。


じゃなきゃもう、今までの全部が無駄になる。



「ホントはな、もっと早く会いに来るべきだったんだよ。
もっと早く探し出してりゃこんなことにはならなかったかもしれないし、俺のこと責めてりゃ良いから、お前は泣くな。」


ずるくて、そしてやっぱり優しい男だ。


泣きたいんじゃないはずなのに、涙ばかりが溢れてくる。



「全部、悪かったよ、ホント。
でも、お前に会いたかった。」


告白なのかどうなのかもわかんなかったけど、それを考えられるほどの余裕もなかった。


何やってたのかとか聞けるほど冷静でもなくて、こんな時なのにキスされてまた涙が溢れるんだから。



「…シュウ、弟なの…」


一瞬大きくなった瞳は驚きを表し、そしてそれを伏せた彼はまた、あたしを抱き締めた。


何でこんな言葉が口をついたのかはわかんなかったけど、でも、ジルの腕の力が強くて、結局その胸に縋ることしか出来なくなる。


また、ひとりで立つことが出来なくなるよ。