葵の言葉が、あたしの真ん中に落とされた。


もしかしたら酒に逃げるようにどこかに逃げたいだけで、それがジルじゃなくても良いのかもしれない。


あたしって結局、誰でも良い女なんだろうし。


嘘の仮面が多すぎて、気付けば支えナシには立てなくなっている現実から、また逃げたくなった。



「…葵は、支えられてんの?」


「わかんない。
好きな気持ちと信頼ってのだけで、結局は脆いものなんだろうし。」


「…何か、あった?」


「あたしの話してんじゃないでしょ?」


何かあったのだろうとは思うけど、言いたくないのだろう言葉に遮られた。


葵は嬉しかったことも悲しかったことも、ポロッと漏らしたりすることがあるが、思えば最近ではそれも減った気がする。


そんなことにも気付けずに居た自分に、恥ずかしくなった。



「葵、悩みあるなら聞くよ?」


「今はさ、まだ良い。
それに酔っ払いに相談、ってのもねぇ。」


「相談したいようなことがあるんだ?」


「人間、悩みのひとつくらいあるもんだ、ってレナいつも言ってんじゃんか。」


「…そう、だけど…」


結局それ以上、問い詰めることは出来なかった。


多分、あたし自身が隠していることが多すぎるから、後ろめたい気持ちもあったのだろう。


源氏名しか知らない彼女との距離の取り方が、わからなくなる。



「レナはさぁ。
変なとこ強情だからねぇ。」


「…何それ。」


「アンタ見るからに恋愛下手そうだし。」


悪かったわね、とだけ返した。