保健所のガス室の前で順番待ちしてたら、悪魔が俺の首根っこを掴み、見えない鎖に繋がれたのだと彼は言う。


悲しくも笑えない例え話に、あたしは瞳を伏せることしか出来なかった。



「お前さ、あんまギンに気許すなよ?」


「…どういう意味?」


「そのままの意味。」


それは多分、嫉妬ではなく、心配。


ふたりは親友なんじゃないのかな、と思うと、少しばかり悲しくなってしまう。


どんなに仲が良くても、彼らの間には目に見えない一線があるのだろう。



「悪ぃな。
当分、店行けねぇかもしんねぇわ。」


「…そう。」


「でも、なるべく時間は作るから。」


「無理しなくても良いよ。
ジル、寝ないであたしのとこ来ようとすんじゃん。」


そう返した時、彼は言葉を誤魔化すようにあたしの頭を一撫でした。


もしかしたらジルもまた、ギンちゃん辺りから釘を刺されたのかもしれない。



「あたしはアンタの仕事の邪魔なんかしないよ。」


だから、あたしを切らないで欲しかった。


そんな願いこそが、ギンちゃんの言う“恋愛”ってヤツなのかもしれないけれど。



「じゃあ、落ち着いたらさ、どっか連れてってやるよ。」


「…どこ?」


「どこでも良いよ、好きなとこ決めとけ。」


ジルは、約束を守る男なんだ。


またね、と言ったきり現れなくなるお客とは違うのだと、信じていたかった。