「俺さ、今の仕事してなかったら、普通に整備士になりたかったんだ。」


「そうなの?
何か想像出来ないよ、ジルがこういうので働いてるとこ。」


「馬鹿にすんなよ。
俺だって簡単な整備くらいは出来んだよ。」


「じゃあ、今日はやんないの?」


「お前居んじゃん。
つか、寒いから無理。」


「整備士になりたかったヤツも、寒いのには負けんだね。」


「うるせぇよ。」


「じゃあさ、今度車いじってるとこ見せてよ。」


「見てどうすんだよ?
つまんねぇだろ、お前にとっちゃ。」


「でも、見たいのー。」


はいはい、と言葉は受け流すようだった。


それでもふたり、オッチャンの作業を見つめながら、やっぱりとんでもなく貴重な時間を過ごしている気がしてならない。


油にまみれて作業服で仕事しているジルなんて相変わらず想像出来ないけれど、それはそれで格好良いのかな、なんて思う。



「オイこら、ジル。
人にだけやらせて、お前はイチャついてんじゃねぇ!」


そう、オッチャンは笑いながら横槍を入れてきた。


油にまみれて仕事してても、どこかその顔は輝いて見える気がする。



「つか、イチャついてねぇっつの。」


「彼女かぁ?」


「違ぇよ。」


「ははっ。
まぁ、他のやつらには内緒にしといてやるよ。」


少し不貞腐れた様子のジルだったけれど、多分このオッチャンには気を許しているのだろう。


困ったように肩をすくめた彼に、いつもの冷たい瞳はない。