「勝手にそんなもん彫って、あたしに拒否られたらどうするつもりだったの?」


「…考えてなかった。」


あまりにもすっとぼけて言ってくれるので、呆れたように笑ってしまう。


最近、この人は天然なんじゃないかと思うことが多々あるわけだが。



「あたしさ、ホント時々アンタで大丈夫かなぁ、って不安になるんだけど。」


ため息を混じらせた瞬間、体を反転された。


見上げると、不敵に笑った顔が落ちてきて、それが頼りないだけの月明かりに照らされる。



「俺じゃなきゃダメなくせによく言う。」


そして首筋には、噛みつくようなキスが落とされた。


ジルは愛しそうに、愛しそうにあたしを抱いてくれるのだ。


吐き出すわけでもなく、欲望をぶつけるわけでもなく、もう首を絞めることもない。


あの頃、痛みのみでギリギリの“生”を感じる行為だったセックスは、いつの間にかジルの愛ばかりを感じるようになっていた。


肩口のトライバルを指でなぞり、その腕に抱かれながら、意識を手放す。





生きる意志は相変わらず乏しい。

未来だって不安なことに変わりはない。



けれども一緒に生きたいと思うようになれた。





煙草と、カルバン・クラインの香りに包まれ、指先を絡め、キスを交わらせる。


たくさんのものを失って、傷つけ合って、涙ばかりを流したね。


見失って、苦しめ合って、それでもあたし達は、互いを選んだ。


居場所が欲しくて、もがいて見つけ出した小さなものを、今度は大切に大切に、育てていこうと思う。


愛し合ってれば、きっとあたし達は大丈夫だから。










END