「レナ!」


うるさいんですけどー、と言ってやりたかったけど、それより先にこめかみに激痛が走り、あたしは軽い眩暈を覚えてため息混じりに吐息を吐き出した。


胃薬とかウコンとかを全部一緒にミネラルウォーターで流し込むと、そんなあたしの元へと、葵が駆け寄ってくる。



「昨日さぁ、超心配したんだからね?
てか、飲みすぎだし!」


「…あぁ、すいませんねぇ。」


普通、心配してた人間は、一緒に残ってくれると思うんですけど。


てか、どうせあの後、聖夜クンとイチャついてたくせに、と葵を一瞥し、あたしは頬杖をついた状態で言葉を投げた。


例え昨日がどんな日だろうと、あたしは店に出れば笑顔を作らなきゃならないし、また同じような一日が繰り返されるのだ。


キモいお客と、見つからないシュウに苛立つ、同じような一日が。


単に萎えてるだけなのか、それとも二日酔いだからなのか、裏でまで嘘臭く笑うことすら億劫に感じられた。



「アンタってさぁ、絶対愚痴らないじゃん?
何かこう、色々と腹に抱えてるんじゃないのかなぁ、って思うのは、あたしの気の所為?」


「気の所為だって。
それにほら、悩みないヤツとか居ないっしょ。」


「…まぁ、そうだけど。」


「あたしの悩みなんか簡単だよ。
今日の髪型微妙だなぁ、とかさぁ。」


それなら良いけど、と彼女は肩をすくめた。


思わずあたしも、深く追求しようとはせずに受け流してくれた葵に、無意識のうちに安堵のため息を吐き出してしまう。


弟が病気なの、と言ったとき、大抵の人はあたしに対し、同情の瞳を向けたがる。


可哀想な人だとか苦労してる人だとか思われて、結局あたしはそんなイメージに固められてしまうのだ。


だから、言いたくないだけ。