「何やっとんねん?!」


焦った様子でギンちゃんは、こちらに近付いてきた。


そしてフェンス一枚を隔て、声を荒げる。



「どういうつもりやねん、何考えてんねん!
お前がさっき言うてたのって、こういうことやったんか?!」


捲くし立てる顔に、ジルはあからさまに肩をすくめる。


あたしはただ茫然と、そんな光景を眺めていた。



「…許してくれよ、陸…」


ひどく悲しげに、ジルは彼の名前を呼んだ。


ジルだけが、引き留める声に顔を向けてしまったのだ。


優しい彼は、きっとギンちゃんを振り払えない。



「…レナが居ねぇとダメなんだよ…」


「アホか!
やからふたりで死ぬとか、そんなん俺が許せるとでも思うとんか?!」


ぎしぎしと軋むフェンスの音。


顔を伏せると、眼下には漆黒の色が広がっていた。


ジルはひどく困惑している。


繋いでいた手はいつの間にか冷たくなっていて、感覚さえも曖昧だった。


ジルはあたしを裏切るのだろうか。



「…邪魔、しないでよ…」


足を踏み出せば、あたし達はこんな世界から消えられるのに。


それだけを、唯一望んでいたのに。


なのにまたあたしは、ひとりぼっちになってしまう。