携帯は今も、バッグの中でマナー音を振動させていた。


目の前で笑っているギンちゃんは、何も知らない顔でくだらないことを言って場を和ませている。


ジルは一度もギンちゃんのことを“陸”とは呼ばなかった。


それでもギンちゃんは、ジルに“清人”と言っていた。


変な会話だなぁ、と思いながらあたしもまた、気が抜けたように笑っていた。


点滴も終わり、医師が来て色々説明を受け、事務作業的な流れは終わる。



「アカンわ。
俺、ニコチン切れてもうた。」


ちょっと煙草吸ってくるわ、と言ったギンちゃんは、手をヒラヒラとさせ、部屋を出る。


あたし達は顔を見合せ、また笑った。



「行こう、レナ。」