「…意識は?」


嶋さんは、首を横に振った。


誰のものともわからないため息が、静かすぎる廊下に消える。



「…何であなたなんかを庇ったんですか?」


考えるより先に、あたしは非難の言葉を口にしていた。


ただ、どうしても許せなかったのだ。


それと共に、今までこの人にされたことを思えば憎みこそすれ、あたしだったら庇ったりなんてしない。



「やめぇや、レナちゃん。」


なのにギンちゃんは、そんなあたしを低い声で制止した。



「嶋さんは無事やったし、アイツも生きてんねん!
清人が庇うた命に対して、そんな言うなや!」


清人、と彼は言った。


ジルの病室であろう扉には、“面会謝絶”のプレートと共に、“一条清人”と名前が書かれている。


シュウの葬儀の日、うちの両親に告げていた名前だった。



「…キヨはそういう男やねん…」


彼は誰かのためにしか生きられない。


ましてや目の前で人が刺されそうになっているのに、頭で考えるような男じゃないと、ギンちゃんは言う。


自分はどうなろうとも、人が苦しむ姿を見るのが何より嫌いな男だ。


やりたくも仕事をさせられていたとしても、彼は嶋さんのことを親代わりだと言っていた。


どうすることも出来なくて、ただ涙が溢れた。