チャコールの店長だった男は、隠れて売り上げ金を自分の懐に入れていた。


が、すぐにそれはバレ、彼は全額返金したが、もちろんそれで許されるはずなんてない。


何をされたのかまではギンちゃんは言わなかったが、それでも想像は出来た。


元々その男は借金苦に悩んでいたらしく、切羽詰っていたのだろう。


そして今日、彼は強行に及んだのだと言う。


ただの逆恨みであり、短絡的に嶋さんを狙った。


ジルはそんな嶋さんを庇い、代わりに刺されたのだ。


白昼の歓楽街で犯人はすぐに取り押さえられ、組が手を下すより先に、誰かが通報したのか警察官がやってきて、男は現行犯で逮捕され、連行された。


ジルは今も意識を取り戻すことはないが、彼以外に怪我はない。


それだけが救いだと言うギンちゃんの言葉は皮肉がこもっているようで、あたしはただ、息を呑んだ。



「致命傷やないって医者は言うねんけど、だったら何で目覚まさへんねん。」


呟くように落ちてきた言葉と同時に、車は総合病院に到着した。


入口には、たくさんの黒塗りの高級車が無造作に止められている。


事の重大さを見た気がした。



「ご苦労様です。」


すれ違うこわもての人たちに頭を下げながら、ギンちゃんはあたしを奥へと連れ立った。


入口には彼ら曰く“身内”と呼ばれる見るからにヤクザな人が多かったけど、病室の前まで来ると、たったひとりを除き、誰の姿もなかった。


俯き加減にドアの前の長椅子に腰を降ろしているのは、いつかムスクの香りを漂わせていた、あの人。



「嶋さん。」


ギンちゃんがそう呼ぶのと同時に、足音に気付いたのだろう彼の視線がこちらを捕らえた。


あたしの足は、そこで動かなくなる。