「…ギン、ちゃん…?」


何でギンちゃんが店の前に居るのかがわからなかった。


何か布切れのようなものを握り締めているようだが、少し離れたこの場所からでは、それが何なのかはわからない。



「彩ならもう少し待てば出てくると思うけど?」


素っ気なくだけ言って視線を逸らそうとすると、レナちゃん、と彼は、あたしの名前を呼ぶ。



「忙しいの、あたし。
悪いけど、くだらないお喋りになんか付き合ってる暇ないから。」


「…ジル、死ぬかもしれん…」


微かに耳に触れた台詞に、思わず眉を寄せた。


聞き取れないほどかすれた、うわずった声。



「…刺されたんや、アイツ…」


聞き間違いではなかった。


付き合ってられない、と背中を向けることさえ忘れていた。



「…何、言って…」


今度はあたしまで騙して、お金にするつもりなのだろうか。


ジルがギンちゃんにあたしを売ったのではないかという疑念もあった。


だけども彼は、「ホンマやねん。」と声を絞る。


今日は拓真の誕生日だ。


あたしはこれから祝いに行くために急がなければならないはずなのに、意志とは別に、心臓が早くなる。


聞かなければ良いのに、足が動かないのだ。


彩の先ほどの言葉を思い出しては、嘘だと言い切れないから。