何でこんな相談に乗ってしまったのだろう、と今更思う。


ジルのためには、彩の背中を押してあげるべきなのかもしれない。


でも、それじゃあたしも共犯だ。


だからと言って、彩に考え直させることも出来なかった。


彼女の“本気”を見てしまったから。


恋敵だとさえ思っていたはずのあたしに相談するなんて、よっぽど苦しんでいるのだろう。



「…捨てられたくないんですっ…」


絞り出したような声。


ふたりにしかわからない世界があるようで、いたたまれなくなる。


それと同時に、あたしは拓真にここまで出来ないだろうという思いもあった。


それが更に、あたしを苦しめるのだ。



「…幸せになるには、どうすれば良いんですか…?」


そんなの、あたしに聞かれたって困る。


幸せになりたいという願い。


それは誰もが持ちえ、簡単なようで、でもとても難しいこと。


彼女はジルが作った偽物の箱庭の中で、夢を見ているだけ。


“ジルコニア”の意味を思い出した。



「一緒に居るだけで幸せなんじゃ、ないの?」


誰に問うた言葉なのか、自分でもよくわからなくなる。


ただ、彩は黙り込んでしまい、あたしは同伴があるからと伝票を持ち、立ち上がった。