気付けばあたしは、拓真に電話を掛けていた。


泣くことしか出来なくて、それでも彼は駆けつけてくれたのだ。


散乱した男物の服の中でうずくまるあたし。


何があったのか、なんてことは聞かれなかった。


その中で唯一輝く散らばった鎖の欠片を一瞥しただけの彼は、もしかしたら全てを悟ったのかもしれない。



「出よう。」


そんな言葉と共に手を引かれ、あたしは自室を後にした。


こんなにもジルの香りに溢れ、彼の物だらけな中には居たくなかったのだ。


すぐにタクシーを止め、拓真はそれへと乗り込んだ。


同じように乗り込むと、背中をさするように抱き締められ、そのぬくもりを知る。


拓真が行き先を告げると、車は静かに走り出した。


気付けばずっと、彼の胸で泣いていた。



「レナ。」


呼ばれ、あたしは首を振った。


そして「愛里だよ。」と言うと、彼は一度驚いたものの、優しげな顔に変わる。



「愛里、うちおいでよ。」


わざとのように呼び直してくれた台詞に、あたしは小さく頷いた。


ただ、ジルと同じように呼んでほしくなかったのだ。





ジルではなく、

拓真を選ぶこと。



それは誰が考えても、至極当然のことだったろう。


だから、これで良かったのだ。