出来たてのポトフを二人分のお皿に移して部屋の中心に置いたガラス製のローテーブルへと並べると、少しばかりジルの視線が気になった。


ビールが飲みたかったけど、それでもあたしだけ飲んでたらキレられそうだしな、とグラスに麦茶を注ぐ。



「食えそうなモンが出来あがってんじゃん。」


「当然だよ。
中学の頃からやらされてたから。」


「…スパルタな親?」


「まぁ、色々あってさ。」


家事は超得意だけど、でも、大嫌いでもある。


だってこれを仕込まれたのは全部シュウの看病をしやすくするためだし、アイツが発病して以来、あたしの青春は消えたようなものだから。


こちらの顔色を一瞥しただけのジルは、煙草を消してソファーを降り、あたしの横へと座り直した。


箸を持ち上げ、いぶかしげにポトフ食してる感じで、何か嫌がらせに近いような顔なんだけど。



「美味しいでしょ?」


「ん、まぁね。」


ホント、可愛くないヤツ。


まぁ、別に期待してなかったけどね、とあたしは、諦めるように肩をすくめた。


あたし達はやっぱり、ままごとの恋人を演じているようだと思ってしまう。


ジルは相変わらずビール出せ、とかうるさかったけど、まぁ、満足したような顔してくれたから、とりあえずは良かったと思えば良いのだろう。


思えばこの部屋に人が入ったのなんて初めてだったし、仕事抜きにして誰かとご飯を食べることも、キャバを始めて以来なかったこと。


そんなことに、あたしは小さく顔をほころばせた。