そんな言葉を残して立ち去る彼に、本気で唇を噛み締めることしか出来なくなる。


ギンちゃんはきっと、この状況をわかっていて、それでも敢えて言葉にしたのだ。


拓真が居たとしても、何ら気にすることはない。


それであたし達の関係がこじれようと、彼にとっては関係のない話なのだから。


今度もまた、ジルはあたしを見ようともしなかった。


拓真が居たからか、彩との一件があったからか。



「今のって、何?」


“温厚な俺”も、さすがに眉を寄せていた。


まぁ、それも当然だったろう、今ので彼は全て悟ったはずだから。



「お客だよ、ただの。」


心底苦々しさにさいなまれ、それだけ返した。


ふうん、と言っただけの拓真だったが、ゆっくりとこちらに視線を向け、煙草を咥えた。



「知ってるよ、あのふたり。
“ただのお客”なら、あんま関わんない方が良いよ。」


彼の言葉は、知り合いのそれとは違って聞こえた。


だからきっと知っているのだろう、彼らの素性を。



「ジルとギンって名前は有名だよ。
一度聞いたら忘れないし…」


そこで拓真は一度言葉を切り、「ホントにヤバいから。」と付け加えた。


そんなこと、今にわかったことじゃないはずなのに、体が固まった。


拓真が言わんとしていることが、全身の毛穴を沸き立たせるのがわかる。


耳を塞ぎたかったのに、出来なくて。



「それが男でも女でも、あの人達は全てを吸い尽くして、喰い物にしてる。」