拓真は買い物をしていたのか、ショップの袋片手だった。


あの日以来避けていただけにどうして良いのかもわからなかったが、目前の彼は何事もなかったかのような顔で笑う。



「つか、飯でもどう?」


相変わらず笑っているので、思わずあたしもつられるように笑ってしまうのだが。


結局のところ、あたしはこの犬のような顔が嫌いにはなれないのだ。



「今日はマジ、指一本触れませんから。
約束の指切りしたって良いよ。」


「…言ってること違うじゃん。」


降参のポーズて両手を掲げる彼の顔には、西日が注いでいた。


確かに今、ひとりで過ごしたくはなかった。


それでもまた、これで拓真を利用することになるんじゃないか、とも思う。



「ホントさぁ、普通に腹減ったから飯食おうよ。
俺奢るし、下心ないから。」


「…ホントに?」


「神父さんに誓うよ。」


それじゃ結婚式だろうが。


さすがはホストなのだろう、簡単にあたしを笑わせてくれる。


諦めるように頷き、ふたり、街に背を向けた。




今日はジルの誕生日。


今頃はカレーを作り終え、あの寒々しい部屋で過ごしていただろう時間でもある。


季節外れのマフラーをプレゼントすると、きっと彼は呆れながらも笑い、受け取ってくれるだろうと思っていた。


いつも通りにビールで乾杯して、映画のDVDだって観ていただろう。


それでもあたしは、拓真と過ごすことを選んだのだ。