「好きだよ、レナ。」


またあたしは、目を逸らした。


けれども今度は頬を捕えられ、唇が落ちてくる。


ただ、涙が溢れた。


色を掛けられたわけではないことくらい、十分にわかっていた。


本気の目で、男の顔で、拓真はあたしに好きだと言ったのだ。


拒むことが出来たはずのキスを、受け入れてしまった。



「…ごめん、帰る。」


荷物を持って立ち上がるあたしを、拓真は引き留めたりはしなかった。


頭の中はもう、グチャグチャだ。


外の世界は小雨がパラつき始め、傘さえ持たないあたしはとぼとぼと当てもなく彷徨い歩く。


“好き”という、たった2文字の単語が苦しい。







向かう先なんてものはない。


帰るところも、行くべき場所もなく、ただ目の前に広がるのは闇色だけ。


ここがどこかなんてこともわからず、それでもそんなことはどうでも良かった。


あっちゃんの言葉も、拓真のキスも、そんなものを欲していたわけではないのに。


夏を前にしているはずなのに、ひどく冷たい雨に打ちひしがれてしまいそう。


まるでひとりぼっちになったような感覚が怖く、なのにあの人からの連絡なんてない。


歩き続けた先には、こんな時間でもこうこうと光を放つコンビニがある。


引き寄せられるように、あたしはそこへと向かった。