微かな煙草の匂いと、ウルトラマンの香りを放つ肩にもたれ掛かった。


舌が麻痺したようにお酒の味さえもうよくわからず、心が擦り切れてしまいそう。


きらきらと輝くフロアの光と、盛り上がりを見せる他の席。


ここに逃げ込むのは、きっとあたしの悪い癖だろう。



「眠っちゃいそうだなぁ、レナは。」


スーツの彼は苦笑いを浮かべていた。


薄ぼんやりとした視界に影が出来、やっと顔を覗き込まれているのだと気付く。



「辛い?」


全てのことが辛くて、こくりとだけ頷いた。


明らかに飲み過ぎなのに、いつものように彼は、制止してはくれない。



「…拓、真…」


拓真だけが、あたしをいつも待っててくれる。


キャバという仕事も、あたし自身を否定することもなく、あっちゃんとも違う。


他の客からの嫉妬の目も、今は気にするほどの興味もない。



「いつものカラオケ屋、わかるだろ?
着いたら部屋番号メールして。」


声を潜ませ、そこで待ってて、と彼は言う。


さすがに驚いて顔をあげると、拓真は口元を緩ませ、席を立つ。


何も考えず、あたしもすぐに席を立った。





ジルに会いたかった。


でも会えないことはわかっていた。


連絡しようとは思わないし、あたしからもすることはない。


あの人の顔も、香りも、もう上手く思い出せなかった。