「…ごめん、無理。」


でも、それでも無理だった。


だって、愛里であった頃の自分自身が思い出せないのだから。


どんな風に彼と過ごして、どんな風に彼の前で笑っていたのかも。



「離れ過ぎてたんだよ、あっちゃん。
あたし達はもう、あの頃とは違うし、あの頃にも戻れない。
お互い良い思い出で終わらせようよ。」


後悔なんて、微塵もなかった。


なのに、



「汚いよ、愛里。」


ぼそりとそんな台詞を思考の片隅で聞いた気がしたが、あっちゃんはすぐに席を立った。


捨てたはずのものに捨てられた気分になったのは、両親と会った時以来だったろう。


またひとつ、心に穴が開いた気がした。


あたしの台詞が卑怯という意味なのか、それともキャバ自体が汚いという意味だったのかはわからない。


けれども確実に、その言葉はあたしをえぐった。


綺麗な仕事ではないんだと、そんなこと今に思ったことじゃない。


でも、唯一の居場所をそんな言葉で括られたことも確かだった。