「無理してるんだろ?
愛里だってやりたくてこんな仕事してるわけじゃないよな?」


それでもまた、あっちゃんはあたしを、捨てたはずの名前で呼ぶ。


理由があるんじゃないか、きっと事情があるに違いない、と言う彼が、どうにも不憫に見えてしまう。



「やりたくてやってるし、居たくて居るの。」


「だってキャバクラだろ?!」


彼はそう声を荒げたが、すぐにハッとしたのか目を逸らした。


少なくとも、“こんなところ”呼ばわりする場所に来ている人に言われたくないし、もうずっと昔に別れた人に、そんなことを言われる筋合いもない。



「そんな恰好して、男に酌して。
昔の愛里はそんなんじゃなかったろ?」


彼の思考はきっと、夢と現実を彷徨うように、過去のあたしを探してる。


でも、過去に揺さぶられているのはもしかしたら、あたしも同じなのかもしれない。



「勘弁してよ、あっちゃん。
あっちゃんだって、そんなこと言う人じゃなかった。」


ずっと彼は、拓真と似ていると思っていた。


でもそれは、記憶の中で作り上げていただけで、実際は全然違ったらしい。


そんなことに、今更気付いた。



「こんな仕事辞めろよ、俺とヨリを戻そう。」


「…何、言ってんの…?」


「目を覚ませよ、愛里!」


頭を鈍器で殴られたような、強い衝撃だった。


疲弊して、憔悴しきっている自分には気付いていた。


あっちゃんと過ごせば、もうこんな思いをしなくても良いのかもしれない。


アイズのレナでなくとも、彼は居場所をくれるのだと言っている。