ジルは煙草を咥え、火をつけた。


あたしはいつも通り、ライターは差し出さなかった。


一口吸うと、彼はあたしへと唇を重ねる。


煙草と少しのりんご飴の味に、あの日の彩の姿が重なった。


見間違いと思って済むのなら、どんなに楽だっただろう。


でも、あれは現実で、それでもあたしは未だ、何も問うことが出来ていないのだ。



「ねぇ。」


「ん?」


「彩のこと、どう思う?」


ゆっくりと視線を上げると、彼は一瞬目を見開いたが、でもすぐにそれは伏せられた。


多分ジルは、あたしが気付いてるってことはわかっているのだろう、残酷で、惨めな気分にさせられる。



「腕、治ってるな。」


答えではない言葉だった。


あの青アザは、本当にファンデーションで隠している数日の間に消えてしまい、今はもう、そんなことさえすっかり忘れていたほど。


ただ、痛みばかりが残ったままだ。



「仕事、大変なんじゃないの?
あたしとこんなとこフラフラしてて良いの?」


「良いんだよ。
今、嶋さんこっちに居ないし。」


緩やかな時間の流れを感じた。


頭を撫でられ、顔を俯かせると、またキスをされる。


彩と、お客と、拓真の顔が次々に頭に浮かび、いたたまれなくなってしまう。


そのまま立ちあがると、「もう少しだけ。」と言ったジルに制止され、捨て猫のような瞳から目を逸らした。