あの日と同じ、少し湿った夏風を感じて顔を向けると、似合わないこんな場所で、彼はやっぱり悲しそうな顔であたしを見つめていた。


ジルに、何故か夏祭りに誘われたのだ。


もう、その時点で驚くことしか出来なかったのだが、結局断ることは出来なかった。


ここがどこだかはイマイチわからないが、神社の境内で催されるそれは、地元民やお年寄り、家族連れの姿が目立ち、カップルは少ない。



「今、ちょうど別のとこで花火大会やってるからさ。
こっちは人少ないんだ。」


へぇ、とだけ返した。


生まれて初めて買ったりんご飴は、予想に反し、あまり美味しいとは思えない。


昔、両親に甘いものはダメだと言われ、だからりんご飴というものは、甘くて美味しいものだと思っていたのに。


少ししょんぼりとしていると、ジルはあたしの手を引き、人の少ない場所までいざなってくれる。



「詳しいね。」


「この辺、昔住んでたことあるから。」


「じゃあ、このお祭りにも来たことあるの?」


「一回だけ。
妹がさ、親と約束してたのに連れてってもらえなかったとかで泣くから、しょうがなく。」


珍しく、自分のことを話し出したジルに、あたしは少し困惑した。



「…妹、いるの?」


「言ってなかった?
弟もいるけど。」


「聞いてないよ。
ジルってお兄ちゃんだったんだね。」


確か、家族との関係は希薄なんだとか言ってたけど。


もしかしたらシュウが死んだときにあたしの気持ちを理解してくれたのは、彼が長男だったからなのかもしれない。



「じゃあ、何であたしのことこんな場所まで連れて来たの?」


そう問うた時、ジルは口元だけで小さく笑った。


それがまるでご機嫌取りのようで、このりんご飴にしても、喜ぶべきことではないように感じてしまう。