「小柴会長、捕まったんだって。」


タクシーで家まで帰り、散々迷った末にジルに電話を掛けた。


だけども電話口の向こうは少し騒がしく、知ってるよ、と彼は言う。



『俺も昨日それ聞いてさ。
だから一応、グランディーも営業停止にしよう、って嶋さんが。』


何故、もっと早く気付けなかったのだろう。


グランディーとはつまり、“身分の高い人”の意だ。


ジルの仕事も、それがバカラ賭博だということも、今更気付くだなんて。



「…大丈夫、なの?」


『俺の仕事は他にもある。
お前の心配することじゃねぇよ。』


もう一軒のチャコールという店のことだろうか。


それでも、いつもいつもジルは、あたしを関わらせないようにしたがる。



『話それだけなら、悪ぃけど切るわ。
あんま長話もしてられねぇし。』


素っ気ないだけの、そんな台詞だった。


捕まらないで、とは言えなくて、通話の途切れた携帯を握り締め、膝を抱えた。


ギンちゃんのためにも、自分のためにもお金を稼がなきゃならないジルを、引き留めるようなことは言えない。


きっとあたしが風俗で稼いだとしても、例え借金したとしても、彼はそのお金は受け取ってはくれないだろうし。


つまりは心配する以外、あたしには出来ないということ。


葵から、アイズを辞めるという旨の電話をもらったのは、それからすぐだった。


多分キャバ自体、辞めてしまうんだと思う。


その方が良いことくらい誰の目からも明らかで、あたしはひとり、涙を堪えた。


こんなの、あたしには背負えないよ。