「…葵、どうなるの?」


「その前に俺もクビだろうよ、きっと。」


自嘲気味な、店長の台詞。


営業の不振は、すなわち店長の力量であり、責任なのだ。



「…店長は葵のこと、どう思ってんの?」


こちらに顔が向くことはなかった。


それでもいつも厳しい目をしているはずの店長の肩は、心なしか震えているようにも見える。



「お前、知ってたのか?」


「知ってた。」


そうか、と店長は押し黙る。



「恋愛感情なんかなかったけど、ほだされちまってさ。
彼氏ともダメんなって、仕事も辞めるとか泣いてるの見てな、頑張れよ、って言ったんだよ。」


思えばあれが間違いだったのかもな、と付け加える顔は、悲しそうだった。


あれ以来、葵があたしの前で泣き事なんか言ったことはなかったのに。


だとするなら、店長との行為も、彼女にとっては救いだったのかもしれない。


結局のところ、女は男でしか埋められ場所があるのは事実だから。



「クビになったら、その後は?」


「夢破れる、だよ。
誰にも言ってなかったけど、嫁と子供が居るんだ。」


じゃあ、葵は?


そんな愚問を投げ掛けられるほど馬鹿でもなく、あたしは黙って言葉を飲み込んだ。


例え店長は、葵に対して本気だったとしても、ほだされただけだったとしても、本当はナンバーワンを目指させるための策だったとしても、胸に仕舞っておくつもりなのだろう。


心がないと成り立たない商売なのに、心を込めるとダメになるだなんて、悲しい世界だ。


良くも悪くも、お金が全て。