シュウが、あたしにそんなことを望むはずなんてない。


望んでるのは、両親じゃないか。


そもそも、大学に行きたかった願いを聞くより先に、あたしの未来を奪ったのはアンタらのくせに。


「愛里も高校を卒業したら、お母さんを助けてくれよ。」と言っていたのは、何を隠そうお父さんだ。


頬の痛みとか、苦しさとか、そんなの全部の中で、涙が込み上げてくる。


カタッと音がして、弾かれたように顔を上げてみれば、ドア越しに佇むお母さんの姿。


今度は何だよ、と睨むと、彼女もまた、ため息を混じらせながらこちらへと歩み寄ってきた。



「お父さんから話は聞いたわね?」


そう言って、目の前に差し出された数冊の冊子。


視線を落とせばそれは、予備校のものだろう、パンフレットのようだ。



「もう、私たちに反抗するのも満足したでしょう?
帰ってこいとは言わないから、せめて普通の子に戻ってちょうだい。」


そう、困ったように彼女は、まるであたしが悪業でも犯したような台詞を吐く。


さすがにもう、呆れることしか出来なくて、悔しささえも込み上げては来ない。


帰ってきてほしくはないけど、世間の目もあることだし、体裁だけは整えろ、か。



「絶対に嫌だから。
水商売がダメって言うなら、風俗にでも行ってやるわよ!」


「愛里!」


「アンタらの望むようになんか絶対に生きない!
あたしはもう、愛里じゃなくてレナなんだよ!」


そう、お母さんの手から奪ったパンフレットの数々を、驚いて目を見開くままの彼女に投げつけ、そしてあたしはその場を去った。


結局、シュウに会わせてもらえず、あの子の四十九日は終わったのだ。


シュウの涙のような雨に打たれながら、たったひとりで泣いた。


あたしは葵のように、捨てたのか捨てられたのかもわからないものに苦しめられ、引き返す道さえ失っていく。


ジルの居ない、嫌に寒い一日だった。